アズカリ

アズの仮置き場。

向こう側に行けない男の話

僕は家を見ていた。

 

見ているのは

兄弟が住んでいる家。

 

日本家屋の立派なお屋敷だった。

 

しかし、僕は

その家自体には興味がない。

 

隣の家との境目はどこだとか、

この溝はどっちの家のものだとか、

気になるのはそんなところばかり。

 

植木鉢に咲き誇っているのは

ワカメ。

 

水中でもないのに

ユラユラとワカメが揺れている。

 

今はワカメの季節なんですね

とそんな世間話をする。

 

「こっち、こっち」

と子どもたちに誘われて行ったのは

家のすぐ横にある崖。

 

その崖の一部に

人間が通れるくらいの穴が開いている。

 

上に向かって伸びる穴は

わかずかに三メートル。

 

くぐればあっという間に

向こう側に行けそう。

 

ここをくぐって

光の射す方へ行こう

と誘う子どもたち。

 

「無理だよ、崩れたらどうするの」

 

そんな僕の言葉なんて

聞こえないかのように子どもたちは

穴をくぐってゆく。

 

崖に手をかける。

 

地質は砂っぽく

ポロリポロリと

壁面が崩れる。

 

子どもたちの大きさ、

重さであれば

なんの問題もないのだろう。

 

大人の僕が

そこをくぐったらどうなるか。

 

壁面に少しでも体が当たれば、

たちまちそこは崩れ

僕はその穴に埋まってしまうだろう。

 

「そうなるだろう」

 

それは単なる僕の推測。

 

実際にはくぐってみないと

わからない。

 

子どもたちが無事なのだから、

僕だって無事にくぐれるはず。

 

そう思うも

くぐる勇気が

僕にはない。

 

穴の向こうに見える光を

ぼんやりと眺めているところで

僕の夢は終わった。

 

あとがき

僕は先日も同じような夢をみた。親友は果敢にも海中へダイブしたが、僕にはそんな勇気がなかった。僕はどこへ飛び込みたいのだろうか?現実の僕には飛び込みたい場所なんてない。踏みとどまっているのには理由があるのだろうか。その勇気がないだけか。